日常茶飯の伝統野菜  

大阪府立食とみどりの総合技術センター
 
                                森下 正博
 
 モンスーン気候の下、南北に長い地形から様々な気候風土のもとに人が住んでいる。そして、地域、季節、食べ方が限定される「各地域にあった伝統野菜」は周年にわたる安定生産と供給に対応出来ないため市場から消え、ほとんどすたれてしまった。しかし、これら伝統野菜と呼ばれる在来品種は、地域の人々にとって重要な食であり、季節毎に得られるこれら野菜が、次の季節の寒さや、暑さなど気候の変化に耐える体力づくりに重要であった。また、日常茶飯のこれら野菜を食することにより、世代を重ねることが出来るとともに、これら食とその地域の気候、風土において、我々人間はその地域の一生態型として生かされてきた。このことが即ち、身土不二といわれるゆえんである。そして、これら野菜の特性や、良さについては徳川吉宗が丹羽正伯に命じ、作成した「諸国産物帳」また古くは長屋王家の木簡や庭訓往来などにも各地の土産、名産として記述されている。
 昭和40年ごろから周年安定生産、消費という目標に向かって、野菜の大部分が在来品種から
※1F1植物に代わっていった結果、生産性の向上にともない合理的、科学的、社会科学的にも優れた食の部分を担うことが可能となり、食の安定化に貢献してきたといえる。 しかし、一方で食の洋風化により動物性蛋白、脂肪の摂取過多と野菜不足から生活習慣病が増加し問題となっている。近年のこれらの問題に対して、伝統野菜の持つ遺伝的な多様性をそのまま受容する必要があると考えられる。そして、地名などの付いた伝統野菜の「素材のもつ豊かさ」を市民に味わってもらいたいとの願いから、各地域で復活が始まっている。しかし、現在は食の洋風化、料理に要する時間が十分持てないなど様々な制約はあるが、簡易な調理法などを開発し、地域の人々が、地元にもこの様に美味しい伝統野菜があったのかと知ること、食べてみたい、栽培したいという気持ちが高まることを願う。そして、これらの活動が、自分の住んでいる地域に対する愛着を生み、郷土愛の発展と自分自身の健康維持につながり、地域の人々との輪となり広がっていくことを望む。  伝統野菜という資源については、それぞれの地域の存在実態に即した出口の開発が求められる。ただの郷愁だけでは今後の展開は難しいことから、「こんなに豊かな野菜なのか」という出口を市民にアピールし、それを達成するために生産、流通、販売、消費、調理、食べる、全ての分野の人々が一致団結し「各地域でふるさと野菜」のルネサンスという位置づけで取り組むことが重要である。われわれ人間の生態型にあった米を中心に、いもと麦を加え、たんぱく質として豆、魚、ミネラル、ビタミンを野菜から摂取するいわゆる日本型食生活を見直し、健康維持に努めなければならない時を迎えた。このような食習慣を目指す点で、全国で芽生えかけている伝統野菜の復活は大きな意味を持つとともに、このすばらしい地域資源と食文化を次代の子どもたちに伝えることが緊要の課題である。 そして、これら活動は農家の生産に連動し、都市域と農村地域の間の調和とコンセンサスが深まり、食を見直すきっかけに繋がるものと確信する。また、この「各地域の伝統野菜」への取り組みが出来るのは、小回りのきく小規模農家、小規模流通、小規模消費の形態であり、小さな点が少しづつ集まり線となり、面となり広がっていくことが、農村地域と都市域の顔の見えるつながりを生み、「いやさか」に繋がる。先人が残してくれた伝統野菜に感謝するとともに、今日の大量生産、流通、消費になじまないために廃れた品種であることを決して忘れないことが重要である。伝統野菜SL号の復活であり、決して新幹線や飛行機にはなることが出来ない。なぜなら、その限界をお互い理解しあわなければ2000年以上も幾多の環境圧を乗り越えてきた多様性を内在している伝統野菜という本物がまた、どこか遥かかなたに去り、永遠にわれわれの手に戻ることはないであろう。 各地域で伝統野菜の復活にかかわっている人々の努力に敬意を表し、合掌。

※1 
F1植物:F1植物とは雑種一代植物のこと。
 つまりAという品種とBという品種を掛け合わせたその子どもC植物のことをF1植物といいます.C植物は両親のよいところを持っているため、収量が多く,病気に強い,そろいがよいなど良いこと尽くめ の植物です.しかしC植物から種を作った場合はA,B,C,さらにAとBの雑種など何が出るがわかりません。このことから,栽培農家は毎年C植物の種を購入する必要があります.つまり,ビジネス上非常に便利な植物です.
 一方,伝統野菜と呼ばれる植物はその株から花を咲かせて種を取ることが出来るため,商売にはなりませんことから,一般の種屋さんでだんだん扱わなくなっています.